【MODULE 03】肩疾患の運動療法:段階的アプローチの実装
肩疾患の段階的運動療法:インピンジメントから腱板断裂まで、パーソナルトレーナーの対応ガイド
肩関節疾患は膝・腰と並ぶ頻度の高い障害で、スポーツ選手・デスクワーカー・高齢者いずれにも多く見られます。しかし、「肩が痛いから肩のエクサを休む」だけでは根本的解決にならないことが多いです。パーソナルトレーナーとして、肩疾患の特性を理解した段階的アプローチが重要です。
主要な肩疾患と特徴
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1. インピンジメント症候群
最も頻度が高い肩障害。肩峰と棘上筋腱の間(肩峰下腔)で腱板組織が挟まれることで生じます。
分類:
- 一次性(構造的):肩峰の形状異常(Type II/III)による狭窄
- 二次性(機能的):肩甲骨運動障害・姿勢不良・回旋筋腱板筋力不均衡による狭窄
典型症状:
- 腕を60〜120°挙上したときの痛み(インピンジメントアーク)
- 夜間に悪化する肩の痛み
- 頭上動作・後頭部への手伸ばしで痛み
2. 腱板(ローテーターカフ)断裂
棘上筋腱が最も多く、変性断裂(加齢性)と外傷性断裂があります。50歳以上の約25%に画像上の断裂が存在し、そのうち多くは無症状です。
完全断裂と部分断裂:
- 完全断裂:筋肉と骨の完全な連続性消失→外転力の著しい低下
- 部分断裂:腱の一部が保存→症状は軽度なことも多い
注意:完全断裂が疑われる場合は整形外科への紹介が優先です。
3. 凍結肩(五十肩・癒着性関節包炎)
関節包の炎症・線維化による関節可動域制限。通常3つのフェーズがあります:
| フェーズ | 期間 | 特徴 |
|---|---|---|
| 炎症期(Freezing) | 2〜9ヶ月 | 強い痛み・徐々に可動域低下 |
| 拘縮期(Frozen) | 4〜12ヶ月 | 痛みは中程度・可動域制限が最大 |
| 回復期(Thawing) | 5〜26ヶ月 | 可動域が徐々に回復 |
4. SLAP損傷(上方関節唇損傷)
投球・ダンベルのキャッチ等の反復的牽引力や圧迫力で生じる上方関節唇の損傷。若年スポーツ選手に多いです。
評価スクリーニング:トレーナーが実施できる検査
インピンジメント
- ニア・テスト:前腕内旋・肘伸展位での受動的挙上→肩峰下痛で陽性
- ホーキンス・ケネディ・テスト:肩・肘90°屈曲から内旋強制→痛みで陽性
腱板の完全性
- エンプティカンテスト:サムダウン(内旋)で腕を45°挙上した状態で押し下げに抵抗→棘上筋の完全断裂で脱力
- ドロップアームテスト:受動的に90°外転位まで挙上→能動的に保持できない場合に腱板断裂を示唆
重要:これらのテストは腱板断裂を「示唆する」ものであり、診断は医師が行います。陽性の場合は医療機関への紹介が必要です。
段階的運動療法プロトコル
フェーズ1:炎症・急性期管理(0〜2週)
目的:炎症の制御・安静の確保
- 痛みを引き起こす動作を回避(特にインピンジメントアーク通過動作)
- アイシング(20〜30分、3〜4回/日)
- 体幹・下肢のコンディショニングは継続可能
フェーズ2:可動域・柔軟性改善(2〜6週)
| 目標 | エクサ例 |
|---|---|
| 前方関節包の伸展 | クロスボディストレッチ(肩水平内転) |
| 後方関節包の伸展 | スリーパーストレッチ(側臥位内旋ストレッチ) |
| 胸椎可動域改善 | 胸椎エクステンション(フォームローラー) |
| 肩甲骨モビリティ | 肩甲骨の前突・後退・上方・下方回旋のアクティブモーション |
フェーズ3:筋力強化(6〜12週)
| 種目 | 対象筋 | 目的 |
|---|---|---|
| サイドライイング外旋 | 棘下筋・小円筋 | 外旋筋力強化・ER/IR比改善 |
| フルカン(サムアップ)エクサ | 棘上筋 | 棘上筋の安全な強化 |
| フェイスプル(ケーブル) | 後部三角筋・外旋筋群 | 肩関節後方安定化 |
| ウォールスライド | 前鋸筋・僧帽筋下部 | 肩甲骨上方回旋改善 |
| ロウ(座位ケーブル) | 肩甲骨後退筋群 | 姿勢改善・肩甲骨安定化 |
フェーズ4:機能統合・スポーツ復帰(12週以降)
- プッシュアップ(肩甲骨の前突強調)
- オーバーヘッドプレス(段階的重量増加)
- スロー・スイング動作の段階的負荷増加(スポーツ選手)
凍結肩への特別なアプローチ
フェーズ別の運動処方
| フェーズ | 運動処方のポイント |
|---|---|
| 炎症期 | 痛みを増悪させない範囲で関節可動域を維持(コドマン体操) |
| 拘縮期 | 関節可動域の回復に集中(積極的なストレッチ・滑車運動) |
| 回復期 | 筋力強化・機能的動作の復帰 |
コドマン体操(前後・側方・円を描く動作)
- 机やテーブルに手をつき、反対側の腕をぶら下げて重力で関節を牽引
- 前後・左右・円を描く動作を各20〜30回
- 1日2〜3回実施
- 痛みが許容範囲(VAS 3/10以下)で実施
姿勢と肩障害の関係
デスクワーカー・スマートフォン使用者に多い「前方頭位姿勢(forward head posture)」や「胸椎後弯(猫背)」は肩関節の機能障害に直結します:
- 肩甲骨の前傾・内旋 → 肩甲胸郭リズムの障害
- 肩峰の降下 → 肩峰下腔の狭窄 → インピンジメントリスク増大
姿勢改善は肩疾患予防・治療の基盤となります。胸椎エクステンション・僧帽筋下部・前鋸筋の強化が特に重要です。
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まとめ
肩疾患への対応は、疾患の正確な理解・段階的プログラミング・禁忌動作の把握・医療職との連携の4点が鍵です。インピンジメント・腱板問題・凍結肩それぞれに適切なアプローチがあり、これを知ることでクライアントの回復に貢献できます。
肩関節の機能解剖と運動処方の詳細はNSCA-CPT試験対策でも体系的に学べます。
よくある質問(FAQ)
- Q:凍結肩は何もしなくても治りますか?
- A:多くの場合、自然回復しますが1〜3年かかることがあります。適切な運動療法・物理療法・ステロイド注射(医師処方)により回復が早まり、可動域の最終値も改善します。「待つだけ」より積極的な管理が推奨されています。
- Q:インピンジメント症候群でベンチプレスはできますか?
- A:インピンジメントがある場合、標準的なワイドグリップベンチプレスは肩峰下に腱板を挟む動作を引き起こす可能性があります。ナローグリップへの変更・肘を体幹に近づけること・痛みの出ない範囲での可動域制限が一般的な調整です。医師・理学療法士の評価後に個別対応してください。
- Q:肩関節の「ポキポキ」音は問題ですか?
- A:痛みを伴わない音(クリッキング)は多くの場合問題ありません。腱が骨の突起を越えるときや関節内の空洞化(キャビテーション)で生じることがあります。ただし、痛みを伴うクリッキングや引っかかり感は腱板の部分断裂・関節唇損傷を示す可能性があり、専門医への相談が推奨されます。
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