カリキュラム論(教育課程論)

カリキュラム開発モデル — 目標・プロセス・実践の設計手順

カリキュラム開発モデルは、教育課程をどのような手順で計画・展開するかを記述する枠組みである。目標から逆算するタイラーの目標モデル、内容と手続きを重視するスティンハウスのプロセスモデル、現場教師から出発するタバの帰納的手順など、複数のモデルが異なる教育観を体現する。本稿は主要モデルを比較し、その前提と適用条件を整理する。

レベル 専門〜研究レベル監修 日原 裕太 NSCA-CPT

この記事の要点

  • カリキュラム開発モデルは目標モデルとプロセスモデルに大別される。
  • 目標モデルは事前の到達目標から内容・評価を導く合理的手順を取る。
  • プロセスモデルは内容と探究の手続きを重視し、目標固定の弊害を避ける。
  • タバの帰納的手順は現場教師の単元開発から全体を構築する。

目標モデルとプロセスモデル

カリキュラム開発の枠組みは大きく二系統に分けられる。目標モデル(objectives model)は、達成すべき目標を事前に明確化し、それを基準に内容・活動・評価を選択・組織する。タイラー原理がその代表で、設計の透明性と評価可能性に優れる一方、目標に還元しにくい学びを扱いにくい。

これに対しプロセスモデル(process model)は、ローレンス・スティンハウスが提唱したもので、事前の行動目標ではなく、価値ある内容とそれを探究する手続き(principles of procedure)を中心に据える。知識は探究を通じて開かれるべきで、結果を事前に固定すべきではないという立場から、人文・探究領域に適する。スティンハウスは教師を自らの実践を検証する研究者とみなす視点も導入した。

タバの帰納的開発手順

ヒルダ・タバは、専門家が全体構造を先に決める演繹的方法に対し、現場教師が個別の教授単元を開発し、それを検証してから全体構造へとボトムアップで組み上げる帰納的手順を提唱した。診断・目標設定・内容選択・内容組織・学習経験の選択と組織・評価という段階を踏む。

  • ニーズ診断: 学習者の必要を把握する。
  • 目標の設定と内容・経験の選択と組織。
  • 評価と、現場単元から全体への帰納的構築。

円環モデルと動的モデル

ホイーラーらは、目標・内容・学習経験・評価が一方向ではなく円環的にフィードバックし合う円環モデル(cyclical model)を示し、評価が次の目標設定に反映される継続改善の発想を強調した。さらにウォーカーの自然主義的(動的)モデルは、設計が綱領(platform)・熟議(deliberation)・設計という非線形の過程を経るという、現実の開発過程の記述に重きを置く。

これらは、線形の手順が現実のカリキュラム開発を単純化しすぎているという認識から生まれ、関係者の価値観の調整や反復的改善を組み込む点で実態に近い。

エビデンスの現在地(確実性: 限定的)

どの開発モデルが優れるかを直接比較し因果的に優劣を示したエビデンスは乏しい。各モデルは教育観の違いを反映する規範的枠組みであり、適否は対象領域(技能習得か探究か)・文脈・実施者の力量に依存する。したがって普遍的な最良モデルを実証的に特定することは難しい。

確実性が限定的にとどまる理由は、モデルの効果が無数の媒介変数に左右され、モデル選択単独の寄与を分離できないためである。実務上は、目的に応じてモデルを選び分ける適応的判断が現実的とされる。

論点と限界

目標モデルは透明だが還元主義に陥りやすく、プロセスモデルは探究を尊重するが評価の客観性と説明責任を確保しにくい。すなわち各モデルは長所と短所が表裏一体で、一方を選ぶことは他方の利点を諦めることを意味する。

また、線形モデルは現実の混沌とした開発過程を理想化しすぎるという批判があり、動的モデルはより記述的だが手順としての指針性に欠ける。記述の忠実さと処方の有用性の間にトレードオフが存在する。

現場・臨床応用

トレーニング指導や健康教育のプログラム開発では、安全な動作手順のように明確な到達が定義できる領域には目標モデルが適し、価値判断や行動変容を扱う探究的領域にはプロセスモデルの発想が有効となる。多くの実務では両者を組み合わせ、目標を定めつつ探究の余地を残す折衷が現実的である。

ただし、どのモデルでも教育成果は文脈と実施者に依存し、特定の結果を保証するものではない。健康に関わる内容では、開発過程に最新の標準・ガイドラインとの整合確認を組み込み、評価による継続的改善の円環を回すことが推奨される。

医療免責

本記事は教育目的の学習コンテンツです。診断・治療行為を代替するものではありません。痛み・しびれ・急性外傷・発熱・進行性の症状や、医師から運動制限を受けている場合は、自己判断で進めず医師・国家資格者にご相談ください。

主要な参考文献・ガイドライン

本記事は、以下の学会ガイドライン・ポジションステートメント・標準的な専門書などの公開情報に基づいて整理しています。具体的な数値や適用は原典・最新版をご確認ください。

  • Tyler, R. W. 『Basic Principles of Curriculum and Instruction』
  • Stenhouse, L. 『An Introduction to Curriculum Research and Development』
  • Taba, H. 『Curriculum Development: Theory and Practice』
  • Walker, D. F.(自然主義的カリキュラム開発モデルに関する論考)

よくある質問

目標モデルとプロセスモデルの根本的な違いは何ですか。

目標モデルは達成すべき結果を事前に固定し逆算するのに対し、プロセスモデルは価値ある内容と探究の手続きを重視し、結果を事前に固定しません。前者は技能習得に、後者は探究的学びに適します。

タバの帰納的手順の特徴は何ですか。

専門家が全体を先に決める演繹的方法と異なり、現場教師が個別の教授単元を開発・検証し、それを全体へと積み上げるボトムアップの手順を取る点です。現場の実践を起点とする発想が特徴です。

円環モデルはなぜ生まれたのですか。

目標・内容・経験・評価を一方向の手順とする線形モデルが、現実の継続的改善を捉えきれないためです。評価が次の目標設定に反映される円環的フィードバックを組み込み、改善の反復を表現します。

どのモデルを使うべきですか。

普遍的な最良モデルはなく、対象が明確な技能か探究的内容か、文脈や実施者の力量によって適否が変わります。実務では目標を定めつつ探究の余地を残す折衷が現実的とされます。

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