痛みの分類

痛みの分類|三つの機構で痛みを鑑別する

痛みは発生機構によって侵害受容性・神経障害性・ノセプラスティックの三つに大別される。IASPが導入したこの機構分類は、原因部位ではなく『なぜ痛むか』に着目することで、評価・説明・医療連携の方向性を規定する臨床推論の基盤である。

レベル 専門〜研究レベル監修 日原 裕太 NSCA-CPT

この記事の要点

  • IASPは痛みを侵害受容性・神経障害性・ノセプラスティックの三機構に分類する。
  • 侵害受容性疼痛は組織損傷・炎症による侵害受容器活性化に起因し原因部位が明瞭なことが多い。
  • 神経障害性疼痛は体性感覚神経系の損傷・疾患に起因し、灼熱感・電撃痛・感覚異常を特徴とする。
  • ノセプラスティック疼痛は明確な侵害受容や神経損傷を欠き、痛み処理の変化(中枢性感作)が想定される。
  • 三機構は併存しうるため、分類の確定は医療機関の役割であり指導者は気づきと連携を担う。

機構分類の臨床的意義

痛みは発生機構によって理解することで、関わり方の方向性が明確になる。原因部位(腰、膝など)だけでなく、なぜ痛むのか(侵害受容か、神経損傷か、処理の変化か)に着目する機構分類(mechanism-based classification)は、評価・声かけ・負荷設定・医療連携の判断を支える。同じ『腰痛』でも、侵害受容性か神経障害性かノセプラスティックかによって、適切な負荷の与え方も説明の仕方も大きく異なる。

IASPはこの三機構を国際的枠組みとして整理した。機構に基づく分類は、解剖学的・病因論的分類(どこが、何が原因か)を補完し、治療標的の選定を合理化することを目的とする。重要なのは、これらが相互排他的ではなく、一人の患者で併存しうる点である。慢性痛では複数機構が層をなして重畳することがしばしばあり、優勢な機構を見極めることが臨床推論の核心となる。

侵害受容性疼痛

侵害受容性疼痛は、組織の損傷や炎症によって正常に機能する侵害受容器が活性化されて生じる痛みである。打撲・捻挫・骨折・変形性関節症・腱障害・術後痛・関節リウマチの炎症性疼痛などが典型で、損傷組織から放出される炎症メディエーターによる末梢性感作を伴うことが多い。神経系自体は正常に機能しており、痛みは『正常な神経系が異常な刺激を正しく検出している』状態と理解される。

一般に原因と部位が比較的明瞭で、損傷部位への機械的・運動的負荷で増悪し、安静で軽減する負荷依存性(mechanical/load-dependent pattern)を示すことが多い。痛みの分布は損傷組織に概ね一致し、組織治癒の経過とともに軽快するのが典型である。この負荷依存性と局在性が、神経障害性やノセプラスティックとの鑑別の手がかりとなる。

神経障害性疼痛

神経障害性疼痛は、体性感覚神経系の損傷または疾患によって生じる痛みである。糖尿病性多発神経障害、帯状疱疹後神経痛、神経根症、脊髄損傷後痛、絞扼性神経障害などが該当し、神経の異所性発火や感作が機構として関与する。

臨床的特徴と評価

神経障害性疼痛は特徴的な感覚記述と分布を示す。痛みは神経の解剖学的支配領域に沿って分布し、陽性徴候(痛覚過敏、アロディニア、自発痛)と陰性徴候(感覚鈍麻、しびれ)が混在しうる。IASPは神経障害性疼痛の診断に段階的な確実性評価(possible/probable/definite)を提唱している。

  • 電撃様・灼熱様・刺すような痛みと表現されることがある
  • しびれ・感覚過敏・感覚鈍麻などの感覚異常を伴う
  • 罹患神経の支配領域に沿った分布を示す
  • スクリーニング質問票が補助的に用いられるが確定診断ではない

ノセプラスティック疼痛

ノセプラスティック疼痛(nociplastic pain)は、明確な組織損傷による侵害受容器の活性化や体性感覚神経の損傷を欠くにもかかわらず、侵害受容処理(nociceptive processing)の変化によって生じると考えられる痛みである。線維筋痛症、一部の慢性腰痛・慢性頸部痛、過敏性腸症候群、慢性骨盤痛などが該当しうる。用語の語幹『plastic』は、神経系の可塑的変化(中枢性感作)が機構的中核であることを示す。

侵害受容性・神経障害性に次ぐ第三の機構カテゴリーとしてIASPが2017年に正式に導入した比較的新しい概念である。広範囲または領域横断的な痛みの分布、刺激への過敏さ(痛覚過敏・アロディニア)、疲労・睡眠障害・認知症状(いわゆるブレインフォグ)・気分の問題などの併存が特徴とされ、IASPはこれらに基づく段階的な診断の手がかり(grading criteria)を提案している。ただし侵害受容性・神経障害性の要素が併存しうるため、純粋な単一機構として扱えない症例も多い。

エビデンスの現在地

侵害受容性・神経障害性という二分は長く確立され、神経障害性疼痛のIASP診断グレーディングも国際的に合意されており確実性は強い。神経障害性疼痛の臨床的特徴とスクリーニング質問票の有用性も確実性が中程度から強い。

ノセプラスティック疼痛は2017年にIASPが用語として正式採用した比較的新しい概念で、臨床的有用性は認知されつつあるが、診断基準の操作性や境界の明確さには議論が残り、確実性は中程度である。三機構の併存は臨床的に広く認識されている。

論点と限界

三機構分類は概念的に有用だが、実臨床では境界が不明瞭で併存例が多い。例えば変形性関節症(本来は侵害受容性)に中枢性感作(ノセプラスティック)が重畳することはまれでなく、単一カテゴリーへの割り当ては困難なことがある。

ノセプラスティック疼痛は『他を除外した残余』として運用されがちで、過小評価や過剰診断の双方のリスクをはらむ。スクリーニング質問票は確定診断ではなく、機構推定はあくまで臨床評価全体の一部である。

現場・臨床応用

分類の確定は医療機関の役割である。運動指導者は痛みの性質・分布・経過・随伴症状を丁寧に聴取し、神経障害性を示唆する記述(電撃様痛・灼熱感・しびれ・支配領域に沿う分布)や、説明のつきにくい広範囲・過敏性の痛みに気づいたら、評価を促す立場にある。

機構の推定は声かけや負荷設定の調整に役立つ。侵害受容性では負荷依存性に応じた漸進、神経障害性・ノセプラスティックでは過敏性への配慮と低負荷からの開始が合理的である。ただし診断を断定せず、レッドフラッグや進行性神経症状があれば医療連携を優先する。

医療免責

本記事は教育目的の学習コンテンツです。診断・治療行為を代替するものではありません。痛み・しびれ・急性外傷・発熱・進行性の症状や、医師から運動制限を受けている場合は、自己判断で進めず医師・国家資格者にご相談ください。

主要な参考文献・ガイドライン

本記事は、以下の学会ガイドライン・ポジションステートメント・標準的な専門書などの公開情報に基づいて整理しています。具体的な数値や適用は原典・最新版をご確認ください。

  • IASP 痛み用語集および機構分類(侵害受容性・神経障害性・ノセプラスティック)
  • IASP/NeuPSIG 神経障害性疼痛のグレーディングシステム
  • Wall and Melzack『Textbook of Pain』疼痛分類章
  • ICD-11 慢性疼痛分類

よくある質問

痛みはどのように分類されますか

IASPは発生機構により侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・ノセプラスティック疼痛の三つに分類します。原因部位ではなくなぜ痛むかに着目する分類で、これらは一人の患者で併存することもあります。

神経障害性疼痛にはどんな特徴がありますか

体性感覚神経系の損傷や疾患に起因し、電撃様・灼熱様の痛みやしびれ、感覚過敏や鈍麻などの感覚異常を伴い、罹患神経の支配領域に沿って分布することがあります。IASPは段階的な確実性評価を提唱しています。

ノセプラスティック疼痛とは何ですか

明確な組織損傷や神経損傷を欠くのに、侵害受容処理の変化によって生じると考えられる痛みです。中枢性感作との関連が想定され、広範囲の痛みや過敏さ、疲労や睡眠障害を伴うことが特徴とされます。

指導者は痛みの種類を判断してよいですか

分類の確定は医療機関の役割です。指導者は痛みの性質や分布、経過を聴取し、神経障害性を示唆する記述や説明のつきにくい広範囲の痛みに気づいたら評価を促す立場で、診断は断定しません。

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