自己効力感

自己効力感の理論と行動継続支援への応用

自己効力感はバンデューラの社会的認知理論の中核概念であり、行動の開始・努力・持続を予測する強力な動機づけ変数である。本稿では効力期待と結果期待の区別、4つの情報源、相互決定論という理論構造を踏まえ、運動アドヒアランス支援への応用を専門的に整理する。

レベル 専門〜研究レベル監修 日原 裕太 NSCA-CPT

この記事の要点

  • 自己効力感は『ある課題を遂行できるという主観的確信(効力期待)』であり、能力そのものではなく能力に対する信念である。
  • Banduraは効力期待(自分にできるか)と結果期待(その行動が望む結果をもたらすか)を区別し、行動には両者が関与すると論じた。
  • 自己効力感は遂行行動の達成・代理体験・言語的説得・生理的情動的状態の4源泉から形成され、なかでも遂行行動の達成(達成体験)が最も強力とされる。
  • 社会的認知理論の相互決定論では、個人(認知)・行動・環境が三者相互に規定し合い、自己効力感はその媒介ハブとして機能する。

理論的位置づけ:社会的認知理論

自己効力感(self-efficacy)は、アルバート・バンデューラが社会的認知理論(social cognitive theory)の中で定式化した概念で、特定の状況で必要な行動を組織し遂行する自己の能力に対する信念を指す。重要なのは、実際の能力ではなく能力についての主観的判断である点である。

社会的認知理論は相互決定論(reciprocal determinism)を採り、個人内要因(認知・感情・生物学的事象)・行動・環境が相互に影響し合うとみなす。自己効力感はこの三者を媒介し、人がどの課題に挑み、どれだけ努力し、困難下でどれだけ持続するかを規定する。

理論的には、自己効力感は人間の主体性(エージェンシー)の中核に置かれる。バンデューラは、人は環境に一方的に規定される存在ではなく、自らの機能を意図的に統制しうる行為主体であると論じ、その統制感の中心に効力信念を据えた。効力感が高い人は困難な目標を選び、失敗を学習機会として解釈し、ストレス下でも努力を持続する傾向が強い。逆に低い人は課題を脅威とみなして回避し、わずかな障害で努力を放棄しやすい。この動機づけ・認知・感情・選択への多面的作用が、自己効力感を行動科学で繰り返し参照される収束的変数たらしめている。

効力期待と結果期待の区別

バンデューラは効力期待(efficacy expectation:自分はその行動を遂行できるか)と結果期待(outcome expectation:その行動が望ましい結果をもたらすか)を理論的に区別した。例えば『運動すれば健康になる』と信じていても(高い結果期待)、『自分には続けられない』と感じれば(低い効力期待)行動は起きにくい。

支援では両者を分けて評価する必要がある。結果期待が低ければ運動の意義を伝え、効力期待が低ければ達成可能な課題から成功を積ませる、という介入の使い分けが導かれる。

結果期待はさらに、身体的結果(健康・体力)、社会的結果(他者からの承認)、自己評価的結果(達成感・自尊感情)などに細分される。同じ運動でも、人によって重視する結果は異なり、ある人には健康増進が、別の人には外見や社会的つながりが行動の誘因となる。支援者は、相手がどの結果を価値あるものとみなしているかを把握し、その人にとって意味のある結果期待に訴えることで動機づけを高められる。効力期待と結果期待の両輪を、個人の価値構造に即して調整することが、社会的認知理論に基づく支援の精緻化につながる。

自己効力感を形成する4つの情報源

バンデューラは自己効力感の主要な情報源として4つを挙げ、その影響力には序列があるとした。

各源泉と影響力

遂行行動の達成が最も強力なのは、それが自己の実体験に基づく直接的証拠だからである。

  • 遂行行動の達成(mastery experience):自ら成し遂げた成功体験。最も強力な源泉
  • 代理体験(vicarious experience):自分と類似した他者の成功を観察すること(モデリング)
  • 言語的説得(verbal/social persuasion):他者からの信頼・励まし・肯定的フィードバック
  • 生理的・情動的状態(physiological/affective states):疲労・不安・気分などの身体・感情情報の解釈

達成体験を中核に据える理由

4源泉のうち遂行行動の達成が突出して影響力が大きいのは、それが推論や観察を介さない直接的成功の証拠だからである。小さくても確実な『できた』の蓄積が、効力期待を頑健にする。

したがって、達成可能な近接目標(proximal goal)を段階的に設定し、成功を実感させる課題設計(漸進的習得 graded mastery)が継続支援の要となる。逆に、達成不能な遠隔目標を課して失敗を重ねさせると、自己効力感をむしろ毀損する。

ただし達成体験は成功の有無だけで決まるのではなく、その帰属(attribution)が重要である。成功を自分の努力や能力に帰属できれば効力感は高まるが、運や課題の易しさに帰属すると効力感は育ちにくい。同様に、生理的・情動的状態は事実そのものよりその解釈が鍵で、運動中の心拍上昇や発汗を『順調な反応』と捉えるか『限界の徴候』と捉えるかで効力感への影響が逆転する。支援者はこの認知的解釈の枠組みづけ(リフレーミング)に関与できる。

エビデンスの現在地

自己効力感が身体活動の開始・維持(運動アドヒアランス)を予測することは、多数の横断・縦断研究で繰り返し示され、行動科学領域で中程度から強い一貫した支持がある。自己効力感は、多くの行動変容理論(TTM・計画的行動理論の拡張・健康信念モデルの拡張)に共通して組み込まれる収束的概念でもある。

一方、自己効力感を高める介入が行動を改善するという因果効果は、介入手法の多様性により効果量にばらつきがあり、確実性は中程度にとどまる。相関の頑健性に比べ、操作的に高める方法の最適化は発展途上である。

論点と限界

第一に、自己効力感は課題・領域固有(domain-specific)であり、一般化された自信とは区別される。運動全般への効力感と、特定種目への効力感は異なる。第二に、過度に高い自己効力感は油断や努力低下を招きうるという指摘もあり、適度な水準が論点となる。第三に、自己報告に依存するため過大・過小評価が生じる。第四に、自己効力感を強調しすぎると、構造的障壁(時間・費用・環境)を個人心理の問題へ矮小化する危険がある。心理変数と環境要因の両輪で捉える必要がある。

現場・臨床応用

運動継続支援では4源泉を意図的に活用する。第一に確実に達成できる課題から始め成功を積む(達成体験)、第二に類似した境遇の参加者のモデルを示す(代理体験)、第三に具体的進歩を取り上げた根拠ある励ましを行う(言語的説得)、第四に運動中の身体感覚を肯定的に解釈できるよう支える(生理的情動的状態)。

  • 達成可能な近接目標を段階的に設定し、成功体験を積み上げる
  • 根拠のない過剰称賛は避け、具体的な進歩に基づくフィードバックを行う
  • 自己効力感は実体験に裏打ちされた見通しであり、根拠なき過信とは区別する
  • 心理的支援と並行して、時間・費用・環境などの構造的障壁にも対処する

医療免責

本記事は教育目的の学習コンテンツです。診断・治療行為を代替するものではありません。痛み・しびれ・急性外傷・発熱・進行性の症状や、医師から運動制限を受けている場合は、自己判断で進めず医師・国家資格者にご相談ください。

主要な参考文献・ガイドライン

本記事は、以下の学会ガイドライン・ポジションステートメント・標準的な専門書などの公開情報に基づいて整理しています。具体的な数値や適用は原典・最新版をご確認ください。

  • Bandura A『Self-Efficacy: The Exercise of Control(自己効力感の基本著作)』
  • Bandura A『Social Foundations of Thought and Action: A Social Cognitive Theory』
  • Glanz K, Rimer BK, Viswanath K (Eds.)『Health Behavior: Theory, Research, and Practice』
  • ACSM『行動変容・運動アドヒアランスに関するガイダンス(ACSM’s Guidelines)』

よくある質問

自己効力感とは何ですか。

ある課題を遂行できるという自分への主観的確信(効力期待)のことです。能力そのものではなく、能力についての信念であり、バンデューラの社会的認知理論の中核概念です。

効力期待と結果期待はどう違いますか。

効力期待は『自分にその行動ができるか』、結果期待は『その行動が望む結果をもたらすか』です。両者は区別され、運動の意義は信じていても続けられる自信が低いと行動は起きにくくなります。

自己効力感を高める4つの情報源は何ですか。

遂行行動の達成(達成体験)・代理体験・言語的説得・生理的情動的状態の4つです。なかでも自ら成し遂げた達成体験が最も強力とされ、小さな成功の積み重ねが効果的です。

自己効力感と過信はどう違いますか。

自己効力感は実際の経験や進歩に裏打ちされた見通しで、根拠のない過信とは異なります。達成不能な目標で失敗を重ねるとむしろ自己効力感を下げるため、段階的設計が欠かせません。

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