解剖学 Ch.4 | Anatomy
上肢の機能解剖学
Upper Extremity Functional Anatomy — 肩甲帯・肘・手関節・回旋筋腱板
1. 肩甲帯の構造と関節
肩甲帯(Shoulder Girdle)は鎖骨(Clavicle)と肩甲骨(Scapula)で構成され、上肢を体幹に連結する。肩関節複合体は5つの関節で構成される。
| 関節 | 分類 | 運動 | 安定化要素 |
|---|---|---|---|
| 肩甲上腕関節(GH Joint) | 球関節 | 屈曲/伸展・外転/内転・内旋/外旋 | 関節唇・回旋筋腱板・GH靭帯 |
| 肩鎖関節(AC Joint) | 平面関節 | 肩甲骨の微細な滑り | 肩鎖靭帯・烏口鎖骨靭帯 |
| 胸鎖関節(SC Joint) | 鞍関節 | 鎖骨の挙上/下制・前引/後退 | 肋鎖靭帯・関節円板 |
| 肩甲胸郭関節 | 機能的関節(真の関節ではない) | 肩甲骨の上方/下方回旋・前傾/後傾 | 前鋸筋・僧帽筋・菱形筋 |
| 烏口鎖骨空間 | 機能的関節 | 腱板・上腕二頭筋腱の通過路 | 烏口肩峰靭帯(アーチ形成) |
2. 回旋筋腱板(Rotator Cuff: SITS筋)
回旋筋腱板は肩甲上腕関節を動的に安定化する4つの筋の総称。各筋の頭文字をとって「SITS」と覚える。
| 筋 | 英語 | 起始 | 停止 | 主な作用 | 神経 |
|---|---|---|---|---|---|
| 棘上筋 | Supraspinatus(S) | 肩甲骨棘上窩 | 上腕骨大結節(上面) | 外転の開始(0〜15°)。GH関節の圧縮安定化 | 肩甲上神経(C5-C6) |
| 棘下筋 | Infraspinatus(I) | 肩甲骨棘下窩 | 上腕骨大結節(中面) | 外旋(最強の外旋筋)。後方安定化 | 肩甲上神経(C5-C6) |
| 小円筋 | Teres Minor(T) | 肩甲骨外側縁 | 上腕骨大結節(下面) | 外旋。棘下筋の補助 | 腋窩神経(C5-C6) |
| 肩甲下筋 | Subscapularis(S) | 肩甲骨肩甲下窩(前面) | 上腕骨小結節 | 内旋。前方安定化 | 肩甲下神経(C5-C7) |
CLINICAL: 肩関節インピンジメント症候群
外転60〜120°で棘上筋腱が烏口肩峰アーチ下で圧迫される(痛みの弧: Painful Arc)。原因: 棘上筋腱の退行性変化・肩峰下滑液包炎・骨棘形成。トレーナーの対応: 僧帽筋下部と前鋸筋の強化で肩甲骨のキネマティクスを改善し、肩峰下スペースを拡大する。
3. 肩甲骨の運動と筋
| 肩甲骨の運動 | 主動筋 | 関連する上肢運動 |
|---|---|---|
| 挙上(Elevation) | 僧帽筋上部・肩甲挙筋 | 肩をすくめる |
| 下制(Depression) | 僧帽筋下部・小胸筋・広背筋 | 腕立て伏せの下降 |
| 外転/前引(Protraction) | 前鋸筋・小胸筋 | パンチ動作・プッシュアップ |
| 内転/後退(Retraction) | 僧帽筋中部・菱形筋 | ローイング・肩甲骨寄せ |
| 上方回旋(Upward Rotation) | 僧帽筋上部+下部・前鋸筋(力のカップル) | 腕を頭上に挙上(屈曲/外転90°以上) |
| 下方回旋(Downward Rotation) | 菱形筋・小胸筋・肩甲挙筋 | 懸垂の引き上げ |
KEY POINT: 肩甲上腕リズム(Scapulohumeral Rhythm)
- 肩外転/屈曲180°は肩甲上腕関節120° + 肩甲骨上方回旋60°の合計
- 比率は約2:1(GH関節2°あたり肩甲骨1°回旋)
- 最初の30°は主にGH関節。30°以降は肩甲骨運動が加わる
- 肩甲上腕リズムの破綻(肩甲骨ジスキネシス)はインピンジメント・腱板障害のリスク因子
4. 肘関節と前腕
| 関節 | 構成 | 分類 | 運動 |
|---|---|---|---|
| 腕尺関節 | 上腕骨滑車 + 尺骨滑車切痕 | 蝶番関節 | 屈曲/伸展(0〜145°) |
| 腕橈関節 | 上腕骨小頭 + 橈骨頭 | 球関節(実質は蝶番的) | 屈曲/伸展の補助 |
| 近位橈尺関節 | 橈骨頭 + 尺骨橈骨切痕 | 車軸関節 | 回内/回外(0〜90°/0〜85°) |
| 肘の主要筋 | 作用 | 神経 | トレーニング例 |
|---|---|---|---|
| 上腕二頭筋(Biceps Brachii) | 肘屈曲・前腕回外 | 筋皮神経(C5-C6) | ダンベルカール(回外位で最大活性化) |
| 上腕筋(Brachialis) | 肘屈曲(純粋な屈筋。回内/回外に無関係) | 筋皮神経(C5-C6) | ハンマーカール |
| 腕橈骨筋(Brachioradialis) | 肘屈曲(中間位で最大活性化) | 橈骨神経(C5-C6) | リバースカール |
| 上腕三頭筋(Triceps Brachii) | 肘伸展(長頭は肩伸展も) | 橈骨神経(C6-C8) | トライセプスプッシュダウン |
| 回外筋(Supinator) | 前腕回外 | 橈骨神経深枝 | 低負荷での回外 |
| 円回内筋(Pronator Teres) | 前腕回内・肘屈曲補助 | 正中神経(C6-C7) | 回内グリップ運動 |
CLINICAL: テニス肘とゴルフ肘
テニス肘(外側上顆炎): 手関節伸筋群(特に短橈側手根伸筋)の外側上顆付着部での腱症。手首のバックハンド・タイピング・物を握る動作で悪化。ゴルフ肘(内側上顆炎): 手関節屈筋群の内側上顆付着部での腱症。グリップ強化・フォアハンド動作で悪化。両者ともeccentricプロトコルが有効。
考察問題
- 肩甲上腕リズムが破綻した場合に生じうる病態を2つ挙げ、それぞれの解剖学的メカニズムを説明せよ。
- ベンチプレスで肩を痛めやすい解剖学的理由を、肩甲上腕関節の構造とインピンジメントの観点から説明せよ。
- 上腕二頭筋の「長頭腱」が肩関節前方で障害を受けやすい解剖学的理由を説明せよ。
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