心肺系生理学
Cardiovascular & Respiratory Physiology — 心拍出量・換気・ガス交換
1. 心臓の機能と心拍出量
心拍出量(CO: Cardiac Output)は1分間に心臓が拍出する血液量で、心拍数(HR)と1回拍出量(SV)の積で求められる:
安静時: 約5 L/min = 70拍/min × 70 ml/拍
最大運動時(一般人): 約20〜25 L/min
最大運動時(エリート持久選手): 35〜40 L/min以上
1回拍出量の決定因子(Frank-Starlingの法則)
| 決定因子 | 定義 | 増加要因 | 減少要因 |
|---|---|---|---|
| 前負荷(Preload) | 拡張終期容積(EDV)。心筋が収縮前に引き伸ばされる程度 | 静脈還流増加・血液量増加 | 脱水・心不全 |
| 後負荷(Afterload) | 心室が血液を駆出する際に打ち勝つべき抵抗(大動脈圧) | 高血圧・大動脈弁狭窄 | 血管拡張薬 |
| 心収縮能(Contractility) | 前負荷・後負荷と独立した心筋固有の収縮力 | カテコールアミン・カルシウム | 心筋梗塞・β遮断薬 |
運動開始直後のSV上昇は主にFrank-Starling機序(静脈還流増加→前負荷増大)による。高強度では交感神経活性化によるinotropic効果(収縮能向上)と心拍数増加が加わる。最大心拍数の40〜50%でSVはプラトーに達し、それ以上の心拍出量増加は主にHR増加によって達成される。
2. 血圧の調節
MAP ≈ 拡張期血圧 + (脈圧 × 1/3)
正常安静時: MAP ≈ 80〜100 mmHg
| 運動の種類 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | メカニズム |
|---|---|---|---|
| 有酸素運動(漸増) | 180〜220 mmHg(最大時) | 変化なし or 軽度低下 | CO増加、骨格筋血管拡張でTPR低下 |
| 静的筋収縮(等尺性) | 急激に上昇(300 mmHg超も) | 大幅上昇 | 機械的圧迫で血流遮断→昇圧反射 |
| 運動後(30〜60分) | 安静値より低下(PEH) | 低下 | 運動後低血圧(PEH)= 血管拡張持続 |
高血圧(140/90 mmHg以上)には持続的有酸素運動(30〜60分/日・週5日)が推奨。等尺性収縮(最大筋力の70%超)は急激な血圧上昇のリスクがあり注意が必要。運動後低血圧(PEH)の効果は最大12〜22時間持続し、降圧薬的効果がある(McGowan et al., 2007)。
3. 換気の調節
呼吸は延髄の呼吸中枢(背側呼吸群: DRG・腹側呼吸群: VRG)によって調節される。安静時の換気量は約6 L/min(1回換気量500 ml × 12回/分)、最大運動時は100〜200 L/min超に達する。
| 換気促進刺激 | 受容器 | 詳細 |
|---|---|---|
| PaCO₂上昇(最重要刺激) | 中枢化学受容器(延髄) | CO₂はBBBを通過しH₂CO₃→H⁺生成、pHを低下させて換気増加 |
| PaO₂低下(低酸素) | 末梢化学受容器(頸動脈体・大動脈体) | PaO₂が60 mmHg以下に低下した際に著明に作動 |
| pH低下(H⁺増加) | 中枢・末梢化学受容器両方 | 高強度運動の乳酸・H⁺増加による換気亢進 |
| 関節・筋受容器 | 筋紡錘・関節受容器 | 運動開始直後の急速な換気増加(ニューラル成分) |
4. ガス交換と酸素運搬
血中酸素は主にヘモグロビン(Hb)と結合して運搬される(溶存O₂は約1.5%のみ)。Hb-酸素解離曲線はS字状を呈し、PO₂が60 mmHg以上では曲線が平坦(安全域)、それ以下で急峻に低下する。
CaO₂(動脈血酸素含量) = (Hb × 1.34 × SaO₂) + (PaO₂ × 0.003)
正常値: CaO₂ ≈ 20 ml O₂/100ml血液
温度上昇・CO₂増加・pH低下・2,3-DPG増加により、Hb-O₂解離曲線は右方移動し(酸素親和性低下)、組織での酸素放出が促進される。運動中の筋肉はまさにこの条件にあり、酸素を効率よく受け取れる。逆に肺では曲線が左方移動し(低温・低CO₂・高pH)、肺胞でのO₂取り込みが促進される。
5. 運動時の心肺応答
| パラメータ | 安静時 | 最大運動時(一般人) | 最大運動時(エリート) |
|---|---|---|---|
| 心拍数(HR) | 60〜70 bpm | 190〜200 bpm | 195〜210 bpm |
| 1回拍出量(SV) | 60〜80 ml | 100〜120 ml | 160〜200 ml |
| 心拍出量(CO) | 約5 L/min | 約20〜25 L/min | 約35〜40 L/min |
| 換気量(VE) | 6 L/min | 100〜150 L/min | 150〜200 L/min |
| 動静脈酸素格差 | 4〜5 ml/100ml | 14〜15 ml/100ml | 16〜17 ml/100ml |
| VO₂ | 0.25〜0.35 L/min | 3〜4 L/min | 5〜6 L/min |
6. 持久トレーニングへの心肺適応
| 適応 | 変化 | メカニズム |
|---|---|---|
| 安静時心拍数低下(スポーツ心臓) | 60→50→40 bpm以下も | 迷走神経緊張増加・SV増大による代償 |
| 左室容積拡大(遠心性肥大) | 内腔拡大・壁厚正常 | 反復的容量負荷→Frank-Starling効果増大 |
| 最大SV増大 | +20〜40% | 左室EDV拡大・収縮能向上 |
| 血漿量増加 | 6〜8週で+10〜20% | アルドステロン・抗利尿ホルモン応答・腎ナトリウム保持 |
| 毛細血管密度増加 | 筋中毛細血管/筋線維比上昇 | 拡散距離短縮→酸素供給効率向上 |
| ミトコンドリア密度増加 | +50〜100%(長期トレーニング) | PGC-1α活性化→ミトコンドリア生合成 |
持久アスリートの心臓は左室容積拡大(遠心性肥大)が特徴。肥大型心筋症(HCM)は壁厚増加(求心性肥大)が特徴で突然死リスクがある。鑑別点: 中隔壁厚 >15mm・左室内腔縮小・家族歴・非対称性肥大→HCMを疑う。運動を中止するとアスリート心臓の変化は6〜12週で可逆的に戻る(HCMは不可逆)。
考察問題
- 持久トレーニング後に安静時心拍数が低下するメカニズムを、フィックの原理を用いて説明せよ。
- 高地(低酸素)環境では換気量がなぜ増加し、長期滞在でどのような適応が起こるか。
- 等尺性収縮(例: プランク)と動的有酸素運動で血圧反応が異なる理由を説明せよ。
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