筋肉系 Ch.2:体幹深部・肩甲帯の機能解剖

体幹・背部の筋肉解剖図
図:体幹深部筋・肩甲帯の筋群(Wikimedia Commons / Public Domain)

1. 体幹筋の機能的分類

体幹筋はグローバル筋(表層・大きな力発生)ローカル筋(深層・分節安定)に分類されます。トレーナーはこの区別を理解した上でコアトレーニングを処方します。

分類 代表筋 主な役割
ローカル筋(深層安定筋) 腹横筋・多裂筋・骨盤底筋・横隔膜 椎間関節の分節安定・腹腔内圧(IAP)生成
グローバル筋(表層運動筋) 腹直筋・外腹斜筋・脊柱起立筋 大きな力・トルク発生・体幹屈伸回旋

2. 腹横筋(Transversus Abdominis)

腹横筋はコアの最深層に位置し、コルセット状に体幹を囲む最重要安定筋です。

  • 起始:胸腰筋膜・腸骨稜・鼠径靭帯・下位6肋骨
  • 停止:白線・恥骨稜・胸腰筋膜(後面)
  • 神経支配:肋間神経(T7-T12)・腸骨下腹神経・腸骨鼠径神経
  • 機能:腹腔内圧(IAP)上昇 → 腰椎安定。四肢運動に先行して収縮(先行収縮 feedforward)
  • 臨床的意義:慢性腰痛者では先行収縮の遅延が確認されている(Hodges 1996)

3. 多裂筋(Multifidus)

  • 走行:仙骨〜C2まで脊柱に沿って斜走(2〜4分節を跨ぐ)
  • 機能:椎間関節の分節安定・脊柱伸展補助・固有感覚フィードバック
  • 腰痛との関係:急性腰痛後に萎縮(Hides 1994)、回復しても自然回復しにくい
  • トレーニング:バードドッグ・デッドバグが効果的

4. 腹腔内圧(IAP)メカニズム

腹横筋・骨盤底筋・横隔膜・多裂筋が同時収縮することで腹腔内圧が上昇し、脊柱を筒状に支持します(Intra-Abdominal Pressure)。

  • 重量挙げ選手のIAP:最大180mmHg以上
  • ヴァルサルバ法:強制呼吸停止でIAP最大化 → 高重量リフトに使用(心疾患者禁忌)
  • ドローイン vs ブレーシング:ドローイン(腹横筋選択的収縮)vs ブレーシング(全腹筋収縮でIAP最大化)

5. 肩甲帯の主要筋(詳細)

肩甲骨の動き(6方向)と担当筋

動き 主働筋 拮抗筋
挙上(Elevation) 上部僧帽筋・肩甲挙筋 下部僧帽筋・前鋸筋下部
下制(Depression) 下部僧帽筋・小胸筋 上部僧帽筋
内転(Retraction) 中部僧帽筋・菱形筋 前鋸筋
外転(Protraction) 前鋸筋・小胸筋 菱形筋・中部僧帽筋
上方回旋 上部僧帽筋+前鋸筋(力のカップル) 菱形筋・肩甲挙筋
下方回旋 菱形筋・肩甲挙筋・小胸筋 前鋸筋・上部僧帽筋

前鋸筋(Serratus Anterior)

  • 起始:第1〜9肋骨外側面
  • 停止:肩甲骨内側縁前面(肋骨面)
  • 神経:長胸神経(C5-C7)
  • 機能:肩甲骨外転・上方回旋・肩甲骨固定(胸壁への押しつけ)
  • 麻痺:翼状肩甲(Winging)→ オーバーヘッド動作・腕立て伏せで顕著

菱形筋(Rhomboid Major & Minor)

  • 起始:C6-T5棘突起
  • 停止:肩甲骨内側縁
  • 神経:肩甲背神経(C4-C5)
  • 機能:肩甲骨内転・下方回旋・挙上補助
  • 臨床:前鋸筋弱化と共に肩甲骨安定性低下の主因。ロウイング系運動で強化

僧帽筋の3部位別機能

部位 起始〜停止 主機能 過活動パターン
上部僧帽筋 後頭骨〜鎖骨外端 肩甲骨挙上・頚部側屈 肩こり・FHP・ストレス時
中部僧帽筋 T1-T5棘突起〜肩甲棘 肩甲骨内転(水平) デスクワーカーで弱化しやすい
下部僧帽筋 T6-T12棘突起〜肩甲棘内端 肩甲骨下制・上方回旋 多くの人で弱化。YTWエクサで強化

6. ローテーターカフ(Rotator Cuff)詳細

ローテーターカフは棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4筋で構成され、肩関節(GH関節)の動的安定を担います。

筋名 起始 停止 主作用 神経
棘上筋 棘上窩 大結節(上部) 肩外転0〜30°開始・圧迫力 肩甲上神経
棘下筋 棘下窩 大結節(中部) 肩外旋(最大筋力) 肩甲上神経
小円筋 肩甲骨外側縁 大結節(下部) 肩外旋・内転 腋窩神経
肩甲下筋 肩甲下窩(前面) 小結節 肩内旋(最大筋力)・水平内転 肩甲下神経

インピンジメント症候群:棘上筋腱が肩峰下でインピンジする状態。棘上筋・前鋸筋弱化+上部僧帽筋過活動が主因。

7. 理解度チェッククイズ(5問)

Q1. 腹横筋の先行収縮に関する正しい記述はどれか?

✅ 正解:四肢運動に先行して腹横筋が収縮し脊柱を事前に安定させる(feedforward制御)

解説:Hodges(1996)の研究で、健常者では四肢運動開始の20〜30ms前に腹横筋が活動するが、慢性腰痛者ではこの先行収縮が遅延することが確認されています。

Q2. 前鋸筋麻痺(長胸神経損傷)で観察される徴候はどれか?

✅ 正解:翼状肩甲(Winging of the Scapula)

解説:前鋸筋は肩甲骨を胸壁に押しつける働きがあり、長胸神経(C5-C7)損傷で前鋸筋が麻痺すると肩甲骨内側縁が胸壁から離れ翼状に突出します。腕立て伏せ・頭上挙上で顕著です。

Q3. 肩甲骨上方回旋における「力のカップル(Force Couple)」を形成する筋の組み合わせはどれか?

✅ 正解:上部僧帽筋+下部僧帽筋+前鋸筋下部繊維

解説:肩甲骨上方回旋は複数の筋が異なる方向に力を加えることで回旋モーメントを生み出す力のカップルメカニズムです。この3筋のバランスが崩れるとインピンジメントリスクが増大します。

Q4. ローテーターカフの中で肩内旋の主働筋はどれか?

✅ 正解:肩甲下筋

解説:肩甲下筋は肩甲骨前面(肩甲下窩)から上腕骨小結節に停止する唯一の前面ローテーターカフ筋で、最大の内旋力を発揮します。肩甲下筋の機能不全はGH関節の後方カプセル拘縮と関連します。

Q5. ドローインとブレーシングの主な違いとして正しいのはどれか?

✅ 正解:ドローインは腹横筋の選択的収縮によるIAP生成を目的とし、ブレーシングは全腹筋の同時収縮で最大IAPを生成し高負荷リフトに適する

解説:リハビリ初期や低負荷では腹横筋の再学習にドローインが有効ですが、スクワットやデッドリフトなど高負荷では全腹筋同時収縮のブレーシングが脊柱保護に優れています。

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