
1. 心臓の解剖学
心臓は縦隔中央(やや左寄り)に位置し、重量約250〜350g。4つの腔(右心房・右心室・左心房・左心室)と4つの弁から構成されます。運動生理学・心肺蘇生(CPR)の基盤知識として全資格で必須です。
心臓壁の3層構造
| 層 | 構成 | 機能 |
|---|---|---|
| 心外膜(Epicardium) | 漿膜の臓側板・冠状動脈・脂肪 | 保護・冠血管の走行経路 |
| 心筋層(Myocardium) | 心筋細胞・介在板・ミトコンドリア豊富 | 収縮力の発生(左室壁厚8〜12mm) |
| 心内膜(Endocardium) | 内皮細胞・結合組織 | 血液との接触面・弁の表面を構成 |
4つの心臓弁
| 弁名 | 位置 | 種類 | 開放タイミング |
|---|---|---|---|
| 三尖弁(Tricuspid) | 右房室口 | 房室弁(3尖) | 心室拡張期(右房→右室) |
| 肺動脈弁(Pulmonary) | 肺動脈起始部 | 半月弁(3尖) | 心室収縮期(右室→肺動脈) |
| 僧帽弁(Mitral/Bicuspid) | 左房室口 | 房室弁(2尖) | 心室拡張期(左房→左室) |
| 大動脈弁(Aortic) | 大動脈起始部 | 半月弁(3尖) | 心室収縮期(左室→大動脈) |
2. 刺激伝導系(Conduction System)
心臓は自律的に電気的興奮を発生・伝導し収縮します(自動能)。この刺激伝導系の理解はスポーツ現場でのAED使用・突然死予防に直結します。
- 洞房結節(SA Node):右心房上壁。ペースメーカー(60〜100回/分)。交感神経→心拍数増加・副交感神経→心拍数減少
- 房室結節(AV Node):心房中隔下部。0.1秒の伝導遅延(心室充満を確保)
- His束→左右脚→プルキンエ線維:心室筋への高速伝導(4m/s)
- スポーツ心臓(Athlete’s Heart):迷走神経優位→安静時心拍数40〜50回/分。左室肥大・容量増加は適応(病的肥大と鑑別重要)
3. 冠状動脈(Coronary Arteries)
| 動脈 | 支配領域 | 閉塞時の影響 |
|---|---|---|
| 左冠状動脈(LCA)前下行枝(LAD) | 左室前壁・心室中隔前2/3 | 前壁梗塞(最多・最重症) |
| 左冠状動脈回旋枝(LCX) | 左室側壁・後壁 | 側壁・後壁梗塞 |
| 右冠状動脈(RCA) | 右室・洞房結節・房室結節 | 下壁梗塞・伝導障害 |
4. 血管系の構造
動脈・静脈・毛細血管の比較
| 特徴 | 動脈 | 毛細血管 | 静脈 |
|---|---|---|---|
| 壁の厚さ | 厚い(弾性線維豊富) | 内皮1層のみ | 薄い(弁あり) |
| 血圧 | 高(大動脈120/80mmHg) | 低(30〜10mmHg) | 低(5〜10mmHg) |
| 機能 | 加圧輸送・脈波伝導 | 物質交換(O2・CO2・栄養) | 貯血・還流 |
| 血液量の割合 | 15% | 5% | 65%(血液リザーバー) |
運動時の心臓血管応答(トレーナー必須数値)
| 指標 | 安静時 | 最大運動時 | 変化倍率 |
|---|---|---|---|
| 心拍数(HR) | 70回/分 | 200回/分 | 約3倍 |
| 1回拍出量(SV) | 70mL | 110〜130mL | 約1.5〜2倍 |
| 心拍出量(CO = HR×SV) | 5L/分 | 20〜25L/分(elite:40L) | 4〜8倍 |
| 収縮期血圧(SBP) | 120mmHg | 180〜200mmHg | 約1.7倍 |
| 拡張期血圧(DBP) | 80mmHg | ±変化小(正常) | − |
Fick原理(酸素摂取量の計算)
VO2 = CO × (CaO2 – CvO2)
- CO:心拍出量(L/分)
- CaO2:動脈血酸素含量(mL/dL)
- CvO2:混合静脈血酸素含量(mL/dL)
- 最大運動時:(a-v)O2差は安静4.5mL/dL → 約15mL/dLに拡大(筋による酸素抽出増大)
5. リンパ系
- リンパ管:組織液の回収(毛細血管から漏出した血漿成分の90%は戻るが残り10%をリンパが回収)
- リンパ節:免疫細胞(Bリンパ球・Tリンパ球)が常駐、抗原提示・抗体産生の場
- 胸管:全身のリンパが集まり左鎖骨下静脈に合流(右上半身は右リンパ本幹)
- 運動との関係:筋ポンプ作用がリンパ還流を促進 → むくみ改善に運動が有効
6. 理解度チェッククイズ(5問)
Q1. 心拍出量(CO)の計算式と最大運動時の正常値はどれか?
✅ 正解:CO = HR × SV。最大運動時20〜25L/分(elite選手では40L/分以上)
解説:安静時5L/分が最大運動時に4〜8倍に増大します。HRは約3倍(70→200)、SVは約1.5〜2倍(70→130mL)の増大が主因です。
Q2. 刺激伝導系のペースメーカー(自動能が最も高い部位)はどれか?
✅ 正解:洞房結節(SA Node)
解説:洞房結節は右心房上壁に位置し60〜100回/分の自発的電気興奮を発生します。スポーツ選手では迷走神経優位により40〜50回/分まで低下することがあります(スポーツ心臓)。
Q3. 最大運動時に拡張期血圧(DBP)はどのように変化するか?
✅ 正解:正常では変化は小さく、ほぼ安静時と同程度(80±10mmHg)
解説:最大運動時には収縮期血圧が著明に上昇しますが、拡張期血圧は骨格筋血管拡張による末梢血管抵抗低下で相殺されほぼ変化しません。DBPが15mmHg以上上昇する場合は高血圧性反応として運動中止の基準となります。
Q4. Fick原理における(a-v)O2差の運動時変化として正しいのはどれか?
✅ 正解:安静時約4.5mL/dLから最大運動時約15mL/dLに拡大する
解説:(a-v)O2差は筋による酸素抽出量を示します。最大運動時は筋の酸素需要増大とミオグロビンへの酸素移動促進により抽出量が3倍以上に増大します。VO2max向上にはCOの増大と(a-v)O2差の拡大の両方が重要です。
Q5. 前下行枝(LAD)の閉塞で起こる心筋梗塞の部位はどれか?
✅ 正解:左室前壁・心室中隔前2/3(前壁梗塞)
解説:LADは「widowmaker(未亡人製造機)」とも呼ばれ、左室前壁の広範囲を支配するため閉塞時の梗塞面積が最大です。スポーツ現場での突然死予防にはAED設置と使用訓練が不可欠です。
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