呼吸器系解剖学(気道・肺・呼吸筋・換気)

呼吸器系の解剖図
図:呼吸器系の全体像(Wikimedia Commons / Public Domain)

1. 呼吸器系の概要

呼吸器系はガス交換(O2取り込み・CO2排出)・pH調節・発声・嗅覚を担います。トレーナーにとって換気メカニズム・呼吸筋・運動時の換気応答は有酸素トレーニング処方の科学的根拠に直結します。

2. 気道の解剖学

上気道と下気道

区分 構成 機能
上気道 鼻腔・咽頭・喉頭 加温・加湿・異物除去(線毛)・発声
下気道(気管〜気管支) 気管→左右主気管支→葉気管支→区域気管支→細気管支 空気の導管。軟骨リングで開存維持
呼吸細気管支〜肺胞 終末細気管支→呼吸細気管支→肺胞嚢→肺胞 ガス交換(全23世代の分岐)

肺胞(Alveoli)の構造

  • 総数:約3億個(総表面積70〜80m²:テニスコート半面)
  • Ⅰ型肺胞上皮:扁平・表面積の95%・ガス交換担当
  • Ⅱ型肺胞上皮:立方形・サーファクタント産生(表面張力↓→肺胞虚脱防止)
  • 血液ガス関門:肺胞上皮+基底膜+毛細血管内皮 ≈ 0.5μm(極薄でガス拡散効率最大)

3. 呼吸筋(Muscles of Respiration)

主呼吸筋

筋名 分類 神経支配 作用
横隔膜(Diaphragm) 主吸息筋 横隔神経C3-C5 収縮→ドーム下降→胸腔容積増大→吸息。呼吸の70〜80%担当
外肋間筋 主吸息筋 肋間神経T1-T11 肋骨挙上→胸郭前後・左右径増大
内肋間筋 主呼息筋(強制) 肋間神経T1-T11 肋骨下制→胸郭縮小→強制呼息

補助呼吸筋(強制吸息・最大運動時)

筋名 作用 臨床的意義
斜角筋(前・中・後) 第1・2肋骨挙上 過活動→胸郭出口症候群(TOS)
胸鎖乳突筋(SCM) 胸骨・鎖骨挙上 COPD・喘息で常時活動 → 頚部痛
小胸筋 第3-5肋骨挙上 短縮で肩甲骨前傾・巻き肩の原因
腹筋群(強制呼息) 腹腔内圧上昇→横隔膜押し上げ 咳・くしゃみ・歌唱・スポーツパフォーマンス

4. 肺気量(Lung Volumes)

指標 定義 正常値(成人男性)
1回換気量(TV) 安静呼吸1回の換気量 500mL(最大運動時3L)
予備吸気量(IRV) 安静吸息後にさらに吸える量 3,000mL
予備呼気量(ERV) 安静呼息後にさらに出せる量 1,200mL
残気量(RV) 最大呼息後も残る量(肺胞虚脱防止) 1,200mL
肺活量(VC = TV+IRV+ERV) 最大吸息後の最大呼息量 4,700mL
全肺気量(TLC) 最大吸息時の全肺容量 6,000mL
努力性肺活量1秒率(FEV1/FVC) 1秒で吐き出せる割合 >80%(閉塞性障害で低下)

5. 運動時の換気応答

換気量(VE)の変化

  • 安静時:6〜8L/分(TV 0.5L × RR 12〜16回)
  • 中等度運動:40〜60L/分
  • 最大運動時:100〜200L/分(エリート選手)

換気閾値(Ventilatory Threshold:VT)

  • VT1(第1換気閾値):乳酸産生増加→CO2増加→換気亢進開始。有酸素・無酸素境界の指標
  • VT2(第2換気閾値):過換気が顕著になる時点。LT2に対応。レース強度設定の上限指標
  • トレーニング効果:VT1・VT2が高強度側にシフト → より高い強度で有酸素的に運動可能

酸塩基平衡と呼吸調節

  • pH低下(H⁺増加)→ 延髄呼吸中枢刺激 → 換気増大 → CO2排出↑ → pH補正(呼吸性緩衝)
  • 高地低酸素:末梢化学受容器(頸動脈小体)がPaO2低下を感知 → 過換気 → 高山病の要因

6. 理解度チェッククイズ(5問)

Q1. 横隔膜の神経支配として正しいのはどれか?

✅ 正解:横隔神経(Phrenic Nerve)C3・C4・C5

解説:「C3,4,5 keeps the diaphragm alive」という英語の記憶法が有名です。頚髄損傷でC3以上が障害されると横隔膜麻痺となり人工呼吸器が必要になります。

Q2. Ⅱ型肺胞上皮細胞の主な機能はどれか?

✅ 正解:サーファクタント(界面活性物質)の産生・分泌による肺胞の表面張力低下

解説:サーファクタントはリン脂質(DPPC主成分)で肺胞の表面張力を低下させ呼息時の肺胞虚脱を防ぎます。早産児ではサーファクタント不足→新生児呼吸窮迫症候群(NRDS)が生じます。

Q3. 最大運動時の1回換気量(TV)として正しいのはどれか?

✅ 正解:約2〜3L(安静時500mLの4〜6倍)

解説:最大運動時にはTVが増大(〜3L)するとともに呼吸数も40〜60回/分に増加し、総換気量100〜200L/分に達します。換気量の増大は主にTVの増大(〜60%VC)と呼吸数の増加の組み合わせです。

Q4. FEV1/FVC(1秒率)が70%未満のとき疑われる病態はどれか?

✅ 正解:閉塞性換気障害(COPD・気管支喘息等)

解説:FEV1/FVC<70%は気道閉塞を示し、COPDや喘息が疑われます。拘束性障害(肺線維症等)ではFVC低下・比率正常以上が特徴です。運動処方前の問診で呼吸器疾患歴を確認し、必要に応じて医師の許可を得ることが重要です。

Q5. 換気閾値(VT1)のトレーニングによる変化として正しいのはどれか?

✅ 正解:VT1が高い運動強度側にシフトし、より高いVO2でも有酸素的に運動できるようになる

解説:持久性トレーニングによりミトコンドリア密度増大・脂質酸化能向上・乳酸クリアランス能向上が起こり、VT1・VT2が最大酸素摂取量の高い割合(%VO2max)で現れるようになります。これが「有酸素能力の向上」の本質です。

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