スポーツ栄養学 Ch.2 競技特性に応じた栄養戦略と試合期管理

🎯 スポーツ栄養学 Ch.2:競技特性に応じた栄養戦略と試合期管理

競技者の栄養戦略は競技種目の代謝特性を理解した上で個別設計する必要がある。本章では競技種目別の栄養アプローチ、試合期の食事計画、極端な体重管理の危険性、サプリメントの根拠と規制について学ぶ。

1. 競技種目別エネルギー代謝と栄養要件

1.1 持久系競技(トライアスロン・マラソン・ロードサイクル)

持久系競技者ではエネルギー可用性(Energy Availability; EA)の確保が最優先課題である。EA = エネルギー摂取量 − 運動エネルギー消費量 ÷ 除脂肪体重(kcal/kgFFM/day)。

指標 推奨値 RED-S警告域
エネルギー可用性 ≥45 kcal/kgFFM/日 <30 kcal/kgFFM/日
炭水化物摂取量(高強度期) 8〜12 g/kg体重/日 <5 g/kg/日
タンパク質 1.6〜1.8 g/kg/日
脂質 総エネルギーの20〜35% <15%は要注意

1.2 パワー・筋力系競技(重量挙げ・スプリント・格闘技)

  • PCr・解糖系依存:高強度短時間爆発力が要求される
  • クレアチンリン酸補充のためクレアチンサプリメント(5g/日維持量)は科学的根拠あり
  • 筋肥大期:タンパク質 2.0〜2.2 g/kg/日、EAサープラス +300〜500 kcal
  • 減量(試合前カット):週0.5〜0.7%/体重の漸進的減量を推奨。急速減量は神経筋機能低下リスクあり

1.3 チームスポーツ(サッカー・バスケットボール・ラグビー)

間欠的高強度運動(HI)と低強度回復の繰り返し。試合1本あたりのGPS距離はポジションにより8〜14 kmに及ぶ。

  • 競技前日:グリコーゲン超回復(炭水化物 8〜10 g/kg)
  • 試合当日:K/O 3〜4時間前に高炭水化物・低脂質・低繊維の食事
  • ハーフタイム:糖質ジェルまたはバナナ + 電解質飲料(30〜60 g糖質)
💡 臨床メモ:RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport)
かつて「女性アスリートの三主徴(FAT)」として知られていたが、IOC 2014年に男女を含む概念RED-Sに拡張。徴候:月経異常、疲労骨折、免疫低下、認知機能障害、心理的苦痛(EDE-Q)。スクリーニング:LEAF-Q(女性)、BEDA-Q(男性)。

2. 試合期栄養管理

2.1 カーボローディング(グリコーゲン超回復)

競技前72〜48時間に炭水化物を高負荷摂取し、筋グリコーゲンを通常値(80〜120 mmol/kg ww)から最大値(150〜200 mmol/kg ww)まで引き上げる。

期間 炭水化物量 注意点
3日前〜2日前 10〜12 g/kg/日 練習強度を落とす(テーパリング)
前日 8〜10 g/kg/日 高繊維食材避ける(腸トラブル予防)
当日朝食(3〜4時間前) 1〜4 g/kg 慣れた食材のみ・実験禁止

2.2 競技中の栄養補給

  • 60分以内の競技:水分のみで十分(マウスリンス法:糖質液のうがいで脳への信号刺激)
  • 60〜90分:30〜60 g/時 の糖質補給
  • 90分超:60〜90 g/時(グルコース+フルクトース 2:1比で腸管輸送体SGLT1+GLUT5を併用)
  • 水分:発汗量の150%を競技後2〜6時間で補給(電解質含む)

2.3 競技後リカバリー

「3R原則」:Refuel(糖質)+ Repair(タンパク質)+ Rehydrate(水分)

  • 競技後30分以内:糖質 1〜1.2 g/kg + タンパク質 0.3〜0.4 g/kg
  • ホエイプロテイン + バナナ の組み合わせが実用的
  • 睡眠前:カゼインプロテイン 40g → 夜間の筋タンパク質合成促進(Res 2012 RCT)

3. 体重管理と急速減量の危険性

3.1 階級制競技の体重カット問題

格闘技・重量挙げ・レスリングでは計量前の急速体重減少(Rapid Weight Loss; RWL)が慣行化している。問題点:

  • 脱水による認知機能・意思決定能力の低下(2%脱水で著明低下)
  • グリコーゲン枯渇→競技パフォーマンス低下
  • 計量後のリカバリー時間不足(24時間未満の場合は特に深刻)
  • 腎機能・電解質バランスへの慢性的ダメージ
⚠️ 注意事項
BWS(Body Weight Spike):計量後に急激に食事・水分補給する方法は短期的パフォーマンス回復に有効だが、消化器負担・GIトラブルのリスクがある。最終体重から3%以内の差異に抑えた計量準備を推奨する。

3.2 健全な体重管理プロトコル

  • オフシーズン終了時点でコンペティション体重の5〜8%以内を維持
  • 減量は試合8〜12週前から開始(週0.5〜1%以内のペース)
  • BIA・デュアルエネルギーX線吸収測定法(DXA)で体組成モニタリング

4. サプリメントの根拠と規制

4.1 科学的根拠レベル別分類

カテゴリー 主なサプリ エビデンスレベル 推奨用量
🟢 強い根拠あり クレアチン一水和物 RCT多数・メタ解析 3〜5 g/日(維持)
🟢 強い根拠あり カフェイン 持久・認知・筋力改善 3〜6 mg/kg(競技60〜90分前)
🟢 強い根拠あり ベータアラニン 筋内カルノシン上昇 3.2〜6.4 g/日(4〜6週間)
🟡 中程度 硝酸塩(ビーツジュース) VO2効率改善 6〜8 mmol硝酸塩(競技2〜3時間前)
🟡 中程度 HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸) 初心者・高齢者に有効 3 g/日
🔴 根拠不十分 グルタミン・BCAA単体 十分なタンパク質摂取で不要

4.2 アンチドーピング規制

WADA(世界アンチドーピング機関)の禁止物質リストは毎年1月1日に更新される。禁止物質カテゴリー:

  • S0: 常時禁止(承認されていない物質)
  • S1: 蛋白同化作用薬(アナボリックステロイド等)
  • S2: ペプチドホルモン、成長因子(HGH、EPO等)
  • S6: 興奮薬(アンフェタミン等)
  • S7: 麻薬(モルヒネ等)

トレーナーとしての注意点:「サプリメントの汚染」問題。NSF Certified for Sport、Informed-Sport認証マークを確認すること。

📝 クイックチェック:スポーツ栄養学Ch.2

Q1. RED-Sにおけるエネルギー可用性(EA)の警告域として正しいものはどれか?

Q2. 90分超の持久競技中に最大何g/時の糖質補給が推奨されるか?

Q3. 科学的根拠が最も強いパフォーマンスサプリメントはどれか?

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