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症例ケーススタディ②:肩関節インピンジメント症候群(デスクワーカー38歳男性)の4週間改善プロトコル

症例ケーススタディシリーズ ②では、デスクワーカーに頻発する肩関節インピンジメント症候群のケースを取り上げます。「肩が上げにくい」「夜間痛で目が覚める」という愁訴は、単なる腱板炎ではなく、しばしば肩甲胸郭リズム異常・姿勢不良・神経学的因子の複合体です。

症例プロフィール

  • 性別・年齢:男性・38歳・ITエンジニア(在宅勤務メイン)
  • 主訴:右肩前面〜外側の鈍痛、120°以上の挙上で痛み、夜間時々痛みで覚醒
  • 発症:3ヶ月前から徐々に増悪、特定の外傷契機なし
  • 既往:頸肩部のこり慢性、運動歴なし、姿勢は典型的な前傾頭位+丸い背中
  • 仕事:1日10時間以上のデスクワーク、休憩少ない

初回評価

問診で除外すべきレッドフラッグ

  • 外傷の既往なし(フルシック骨折・肩鎖関節脱臼除外)
  • 夜間痛は体位変換で軽減 → 悪性腫瘍・感染症は否定的
  • 頸椎由来の放散痛・しびれなし(神経根症否定的)
  • 胆嚢・心疾患由来の関連痛除外(深呼吸・運動負荷との関連なし)

動作評価

  • 頭位:前傾頭位(forward head posture)顕著、外耳孔が肩峰より前方に
  • 胸椎:後弯増強、上部僧帽筋過緊張、下部僧帽筋・前鋸筋活動低下
  • 肩甲骨位置:前傾・外転位、下角浮き気味(winging)
  • 肩関節挙上:屈曲140°(健側170°)、外転は120°でpain arc出現
  • 外旋:第II肢位(90°外転)で50°(健側80°)

整形外科テスト

  • Neer test:陽性(ROMの最終域で疼痛再現)
  • Hawkins-Kennedy test:陽性
  • Empty can test:軽度疼痛+筋力低下
  • Drop arm test:陰性(完全断裂は否定的)
  • Scapular Assistance Test:陽性(介助で疼痛減弱、肩甲骨機能不全示唆)

仮説

肩甲胸郭リズム不全による二次的な棘上筋腱インピンジメント。姿勢由来(デスクワーク中心生活)の可能性が高い。整形外科でMRIを撮影したが、腱板に顕著な部分断裂や石灰化なし。SLAP損傷も否定的。

介入計画(4週間プログラム)

Week 1〜2:疼痛緩和・姿勢再教育

  • 胸椎モビリゼーション:自宅でフォームローラーで自主的
  • 後方カプセル・小胸筋ストレッチ
  • 肩甲骨のニュートラルポジション再学習
  • 下部僧帽筋・前鋸筋のリ・アクティベーション(low row、wall slide、scapular punch)
  • デスク環境調整:モニター高さ・キーボード・椅子のセッティング指導
  • 30分ごとの「マイクロブレイク」:席を立つ&肩回し30秒

Week 3〜4:腱板強化+肩甲骨制御

  • External Rotation(チューブ、肘90°):腱板後方の強化
  • Sleeper stretch:内旋制限の改善
  • Y-T-W-Lエクササイズ:肩甲骨後傾・下方回旋筋群の強化
  • Push-up plus:前鋸筋強化(壁→ベンチ→床と段階的)
  • Prone Y/T:肩甲骨後傾+下部僧帽筋

禁忌・避けるべき動作

  • 急性期の高負荷オーバーヘッドプレス
  • ベンチプレス(前面のタイトネス助長)
  • 肩甲骨を固定しない大きな円運動

結果(4週間後)

  • 右屈曲:140° → 165°(pain arc消失)
  • 第II肢位外旋:50° → 75°
  • 夜間痛:消失
  • NRS:6/10 → 1/10(運動時のみ軽度残存)
  • Empty can test:陰転、筋力対称性回復
  • 姿勢写真:頭位・胸椎カーブ明らかに改善

考察:「肩の痛みは肩だけの問題ではない」

本症例の本質は、姿勢・肩甲胸郭リズム不全であり、ローテーターカフ強化だけでは解決しません。Cools et al. (2014) の総説でも、肩インピンジメントの治療成功には肩甲骨機能の再獲得が中心的と強調されています。

また、デスクワーカーへの介入では「ジムでの30分」よりも「日中16時間の姿勢」が支配的因子です。本人への教育・環境調整が最大の治療効果を生みます。

現場へのメッセージ

肩のクライアントが来たら、まず姿勢・肩甲骨・胸椎を見ましょう。「腱板のせい」と決めつけず、上行性連鎖(骨盤・体幹)も含めた全身評価が、再発予防の鍵です。

夜間痛・絶対的可動域制限・神経症状などのレッドフラッグがあれば、整形外科と連携してください。トレーナー単独で完結しない症例も多くあります。

参考文献

  • Cools AM, et al. (2014). Rehabilitation of scapular dyskinesis: from the office worker to the elite overhead athlete. Br J Sports Med, 48(8):692-697.
  • Kibler WB, et al. (2013). Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury: the 2013 consensus statement from the ‘Scapular Summit’. Br J Sports Med, 47(14):877-885.
  • Kuhn JE. (2009). Exercise in the treatment of rotator cuff impingement: a systematic review and a synthesized evidence-based rehabilitation protocol. J Shoulder Elbow Surg, 18(1):138-160.

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