RED-S(相対的エネルギー不足症候群)の最新理解:女性アスリート三主徴を超えて
RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport:スポーツにおける相対的エネルギー不足症候群)は、女性アスリートだけでなく男性アスリートにも生じる、利用可能エネルギー不足を起点とした多臓器症候群です。従来の「女性アスリート三主徴(無月経・摂食障害・骨密度低下)」を発展させた概念として、IOC 2014年合意声明で提唱されました。
本稿では、IOC 2018年改訂版(Mountjoy et al.)と2023年エキスパートステートメントをもとに、RED-Sの病態・スクリーニング・介入を体系的に解説します。
1. RED-Sの中核:低エネルギー利用可能量
エネルギー利用可能量(EA: Energy Availability)は以下の式で算出:
EA = (エネルギー摂取量 − 運動による消費エネルギー) ÷ 除脂肪量(FFM)
- EA > 45 kcal/kg FFM/日:最適範囲
- EA 30〜45 kcal/kg FFM/日:軽度不足(亜臨床的影響)
- EA < 30 kcal/kg FFM/日:明らかな不足(臨床的問題発生)
EAが30を切ると、視床下部-下垂体-性腺軸が抑制され、月経異常・骨代謝異常・心血管系異常など多臓器に影響が広がります。
2. 影響を受ける臓器・システム
- 内分泌系:エストロゲン低下、LH/FSH低下、IGF-1低下、レプチン低下、コルチゾール上昇
- 骨代謝:骨吸収増加、ピーク骨量到達失敗、疲労骨折リスク増(特に脛骨・舟状骨・恥骨)
- 心血管系:徐脈、低血圧、不整脈、冠動脈機能異常
- 消化器系:胃排出遅延、便秘、肝機能異常
- 免疫系:上気道感染リスク増、創傷治癒遅延
- 精神神経系:抑うつ、不安、集中力低下、運動恐怖
- パフォーマンス:持久力・筋力・反応速度すべて低下、トレーニング適応低下
3. 女性アスリート三主徴との関係
従来の「Female Athlete Triad」(ACSM 2007)は、利用可能エネルギー低下→月経異常→骨密度低下の3要素に焦点。RED-Sはこれを包含しつつ、男性も対象とし、骨格筋・心血管・代謝・心理面までを網羅する広範な概念です。
4. リスクの高いスポーツ・状況
- 審美系競技:体操、フィギュアスケート、シンクロナイズド・スイミング
- 階級制競技:ボクシング、レスリング、柔道、ボディビル
- 持久系:マラソン、トライアスロン、自転車ロードレース
- 跳躍系:高跳び、棒高跳び、走り幅跳び
- 練習量急増期、減量期、シーズンイン直前
5. スクリーニング:LEAF-Q・三主徴スクリーニング
女性アスリートにはLEAF-Q(Low Energy Availability in Females Questionnaire)が標準。25項目、合計≥8点でリスク高と判定。月経歴・GI症状・骨折歴を含めた多面的評価。
男性スクリーニングはまだ確立途上で、LEAM-Qの開発が進められています。
6. 介入アプローチ
多職種チーム必須
- スポーツ医
- スポーツ栄養士
- スポーツ心理士
- 婦人科医(女性アスリート)
- 整形外科医(疲労骨折ある場合)
- コーチ・トレーナー
第一段階:エネルギー回復
- EAを45 kcal/kg FFM/日以上に回復
- 運動量制限(必要に応じて)
- 栄養カウンセリング・食事プラン作成
- 体重・体組成のモニタリング
第二段階:心理介入
摂食障害の傾向がある場合は、認知行動療法(CBT-E)。完璧主義・自己評価の偏り・体型への執着への対処が必要。
第三段階:競技復帰判断
IOCのRED-S CAT(Clinical Assessment Tool)でリスクをGreen/Yellow/Redに分類。Redは原則競技参加禁止。Yellowは段階的復帰。Greenでフル参加。
7. トレーナー・指導者の役割
- 「痩せろ」という体重指導の弊害を理解し、表現を慎重に選ぶ
- 異常な疲労感・パフォーマンス低下・繰り返す傷害を早期察知
- 女性選手の月経状況をデリケートに把握(避けず・押し付けず)
- 食事日記・睡眠記録を運動記録と統合管理
- 疑い例は速やかに専門医へリファー
まとめ:「痩せていれば速い」の終焉
RED-Sの理解は、現代のスポーツ指導における必須教養です。「痩せていれば速い」「軽い方が有利」という短絡的指導は、長期的にアスリートを破壊します。
エネルギーを十分に摂取し、健全な月経と骨代謝を維持することが、結果的に長く強いアスリート人生を作る——この理解と実装が、トレーナー・コーチ・医療者の責務です。
参考文献
- Mountjoy M, et al. (2018). IOC consensus statement on relative energy deficiency in sport (RED-S): 2018 update. Br J Sports Med, 52(11):687-697.
- Mountjoy M, et al. (2023). 2023 International Olympic Committee’s (IOC) consensus statement on Relative Energy Deficiency in Sport (REDs). Br J Sports Med, 57(17):1073-1097.
- Melin A, et al. (2014). The LEAF questionnaire: a screening tool for the identification of female athletes at risk for the female athlete triad. Br J Sports Med, 48(7):540-545.
cortisアカデミーで深く学ぶ
本記事で解説した内容は、cortisアカデミーで体系的に学べます。医療従事者・トレーナー向けに、最新のスポーツ医学・運動療法を月額制で提供しています。
Proプラン ¥2,980/月:全カリキュラム・論文解説
Clinicプラン ¥4,980/月:Pro特典+臨床ケーススタディ